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『深夜特急』。名作だけれど好きにはなれないたった1つの理由

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沢木耕太郎の小説『深夜特急』は、多くの旅行者に読まれている名著です。特に年配の旅行者であれば、必ずと言っていいほど知っている本。大沢たかお主演でテレビドラマにもなった有名作品です。

その内容はというと、『インドのデリーからイギリスのロンドンまでを、乗り合いバスで行く』とある日思い立った「私」が、仕事を辞めて旅に出る。香港では黄金宮殿という名の連れ込み宿に泊まり、途中マカオでは大小というギャンブルにはまって、あわやという目にも遭い……。そうして思いも寄らぬ体験をしながらロンドンを目指すという、作者の実体験を元にして書かれた小説です。

 

産経新聞に連載されていた小説で、第1巻が出版されたのは1986年という古い本なので、さすがに若い方は知らない人のほうが多いでしょう。

そういった古い本なのですが、その影響力は凄いです。この本に影響されて海外放浪の旅に出た、という人はかなり多い。私も海外旅行中、そういった人達に何度も会いました。

実際この本はとても面白いし、引き込まれる小説です。1970年代の旅行体験を元にして書かれた小説なのでガイドとしてはまったく役にはたちませんが、とにかく格好いい。自分もあんな風に旅してみたい……と思わせる魔力がこの本にはあります。

どこかハードボイルドな雰囲気もあり、本当に格好いいんですよ。そしてそこが、私がこの本を好きになれない理由でもあります。

 

この小説の主人公は全編にわたって格好いいんです。もちろん途中で失敗もします。しかしその失敗も、どこか格好よさの残るクールな失敗なんです。ドラマを盛り上げるためにあるかのような失敗。 

ルポライターで作家の沢木耕太郎が主人公です。そりゃめちゃくちゃ頭も切れるでしょうから、本当にこんな風にずっと格好よく旅をしていたのかもしれません。

それに、商品の小説なのですから、山あり谷ありで上手く盛り上げて読者を惹きつけなければなりません。面白みのカケラもないような、読者がおもいっきり引いてしまうような、そんなくだらないだけの失敗なんかはわざわざ書かないでしょう。

でも長く旅行していると、そういうみじめな失敗をすることだって1度や2度はあると思うんですよ。

 

馬鹿すぎる自分のせいでやってしまった、恥ずかしいだけの体験。1年たっても2年たっても、思い出すたびに顔が赤くなってきて死にたくなる。笑い話にもできない。人に話しても同情もされない。自分がすべて悪い。自分が馬鹿だっただけ。みじめだ……。10年以上たって、やっと風化してくるような、そんな経験。

このような体験は、ブログにだってとてもそのままは書けない。だから、美化して書いたり、自分を格好よく見せて書いたり、都合の悪い部分だけ書かなかったりする。

本当に恥ずかしい体験って、そのまま正直に書くのは難しいんじゃないでしょうか。私には難しいです。自分の嫌な面や駄目な面からは目を背けたいし、そういった負の面を他人に知られると思うと心苦しいからです。

だけれど、長い期間旅行を続けていると、そんな人には知られたくないような体験だってしてしまいます。

 

深夜特急は名作です。主人公は思慮深くかつ行動的で、とても魅力的。途上国の貧困や当時の現状もよく描かれている。

けれども私は好きになれない。格好よく旅する主人公に対して、『いや、そうじゃないだろう』って思ってしまう。

旅って格好いいだけじゃないだろう。思い出すと死にたくなるような、みじめったらしい経験だってしているだろう。そういうみじめさを感じることだって、旅の醍醐味じゃないのか。そんな風に考えてしまいます。

旅することを格好よく書きすぎているのが鼻につくんですよね。そこが好きになれない。

 

う~ん、私自身があんな風に格好よく旅ができないからって嫉妬しているんでしょうか? いや、でもなあ。怪我したり死んだりさえしなければ、死にたくなるような最悪の恥ずかしい経験だって、私は悪かないと思うんですよねえ。まあ、10年以上たたないとそう思えなかったりしますけれど。

最低最悪にみじめで情けないだけの経験をしてしまって、それでも無様に旅を続けるような、そんな一面も描いて欲しかったなあと思うんです。そのほうがなんだか人間らしいような気がするんですよね……。

 

けっこう批判的に書いてしまいましたが、面白い本であるのは間違いありません。そうでなければあんなにたくさんの人が惹かれる訳がない。この本のおかげで人生が変わってしまった人もいるでしょう。興味があるなら一読をおすすめします。